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森さんちに、おじゃましました “北欧” 経由、暮らしを楽しむ「これでいいんだ!」のアイデアvol.43
はじめまして。北欧の旅や暮らしの情報を発信している森百合子と申します。北欧の国々を旅するようになって15年ほどが経ち、わが家には布や食器など北欧モノが増え、旅先では部屋づくりや暮らしに役立つヒントにもたくさん出会いました。これから月に1回ほどのペースで、わが家で取り入れている北欧経由の暮らしのアイデアをご紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
抵抗するテキスタイル
わが家の暮らしを彩るのにかかせないのが、北欧のテキスタイルと色。ビンテージのテキスタイルから現代のクリエイターによるデザインまで、色づかいの美しさや、主張しすぎないバランスのよい色や柄の組み合わせには魅了されていくばかり。まだまだ知らないデザイナーも多く、探求する楽しさもあります。
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今年、また新しいテキスタイルとの出会いがありました。ノルウェーの織物アーティスト、ハンナ・リッゲンの作品です。ハンナ・リッゲンは19世紀の終わりにスウェーデンに生まれ、結婚してノルウェー北部の農村へ移住してから独学で数々のテキスタイルを生み出し、とくに1930年代から第二次世界大戦下、そして戦後にかけて精力的に創作活動をつづけ、作品を通じて政治や社会に対する批判やメッセージを訴えました。
最初に彼女の作品を見たのは、ノルウェー、オスロの国立美術館でした。斬首された二人の人物と背後に十字架が織り込まれた強烈な絵柄は、ヒトラーの行為とそれに関わったとされる教会を糾弾する作品でした。
芸術の力で社会問題の解決を働きかける「アート・アクティビズム」という活動があります。昨今でいえばイギリス出身とされる正体不明のアーティスト、バンクシーの作品がよく知られていますが、ハンナのタペストリーはその先駆けのようなもの。そんな彼女の作品と生き様が、近年改めて再評価されているのです。
ハンナが暮らしていた農村からも近い、ノルウェー第3の都市トロンハイムでは、3年に一度、ハンナの名前を冠した展覧会が開催されています。今年で4回目を迎えるハンナ・リッゲン・トリエンナーレのオープニングに、この春、縁あって参加してきました。
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『Mors hjerte (Mother’s heart)』 Hannah Ryggen
-ノルデンフィエルスケ装飾美術館(Nordenfjeldske Kunstindustrimuseum)所蔵
会場で目を奪われたのは、「母の心」と題された作品です。1947年に制作された、赤を基調にしたタペストリーは政治的な作品とは対照的に、母としての思いや悩みを織りあげたパーソナルな作品でした。
ハンナの幼い娘はてんかんを患っていて、当時は病気への理解も少なく差別や偏見に苦労したこと。それでも創作の時間を取るために、家族に育児をまかせる自分への葛藤などが表現されているとのこと。貧しい暮らしのなか織物の材料を確保するのも大変で、森からとってきた植物で糸を染めていたと説明がありましたが、心の叫びを表現した力強いモチーフと、それでもどこか穏やかな色彩に引き込まれました。
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この作品、よく見るとネコがいるのです。タペストリーの中央には、ハンナの暮らしをのぞき見て噂する人々が織り込まれているのですが、その下にはネコさんが。美術館の方に尋ねると、スウェーデンやノルウェー語の言いまわしで「~にネコをくれてやる」=「~のことなど、どうでもいい、気にしない」という意味になるのだとか。女性らしく、母親らしく生きよという周囲からの干渉や、「あの家族はふつうでない」と噂する人々に屈することなく、ネコを通して「知ったことか」と応えるハンナの心意気が表現されているとのことでした。なんと、かっこいい!
国立美術館で見た時には、強い色合いとショッキングな絵柄に圧倒されるばかりでしたが、暗く厳しい世相を反映しながらも反骨精神のなかにユーモアも漂わせる作風に、勇気づけられるような感じがしました。
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トリエンナーレの初日は入場無料で市民に開かれ、開場前にはびっくりするほど長い行列ができ、美術館の方々も驚いていました。老若男女を問わず、こんなにも多くの人が興味をもち、時代を超えて彼女の心の叫びを受けとるかのように作品を見る人々の姿にも心打たれました。
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北欧のデザインというとモダンで機能的な家具や、かわいい雑貨がまず思い浮かびますよね。わたしも、もともとは自分の住まいを居心地よくしたいという思いから興味をもちましたが、いまでは北欧のアートやテキスタイルが、社会や世界を知るきっかけにもなっています。権力に抵抗し、不正を糾弾し、わたしたちの暮らしや社会を脅かすものには「No!」と叫ぶ。ハンナのテキスタイルは、いまのわたしたちに必要なものだと感じます。
このトリエンナーレはトロンハイム市内、近郊にあるいくつもの美術館やギャラリーと共同で秋まで開催され、会場にはハンナ・リッゲンの作品とともに、現代のアーティストによる作品も展示されていました。
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«Jeg sydde mine håp i disse sømmer» Ingrid Viksmo
-トロンハイム美術協会(Trondhjems Kunstforening)にて展示
あるアートギャラリーで目に止まったのは、こんなかわいらしい色合いの刺繍作品です。イングリッド・ヴィクスモという女性作家によるもので、トロンハイムから南西に下った農村で、伝統的な技法を受け継ぎながら、創作を続けているとのこと。「わたしはこの夏、希望を縫いこんだ」と、ノルウェー語で書いてあるそうです。
アートや手仕事のもつパワーを再認識したノルウェーの旅。不安な時代にこそ、アートに触れ、学び知ることをつづけないとなあ、と思いました。そして無理解な相手には、ネコの精神で!のみ込まれないようにしたいなと思ったのでした。
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バックナンバー
森さんが教えてくださった、暮らしを楽しむ「これでいいんだ!」のアイデアは他にもたくさん!
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森 百合子 mori yuriko
北欧5ヶ国で取材を重ね、旅や暮らし、デザインの情報を中心に発信。著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧おみやげ手帖』(主婦の友社)、『いろはに北欧 わたしに“ちょうどいい”旅の作り方』(ダイヤモンド・ビッグ社)ほか。執筆活動に加えて、NHK Eテレ『趣味どきっ!』、NHK 総合『世界はほしいモノにあふれてる』などメディア出演や講演を通じて北欧の魅力を伝えている。
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