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ファッションライターLulu.の「美しいは嬉しい」vol.19

ファッションって知的好奇心を満たし喜びをもたらしてくれるんです。内面のいちばん外側がファッション。
(本記事でご紹介するアイテムは、松屋でお取り扱いのないものもあります。)

2025/09/08

東洋から西洋へ。伊万里の港から旅立った磁器たち

こんにちは。
今回は陶磁器です。この春、オランダのロイヤル デルフト工房を訪れ、ルーヴルでマイセンの〈Bolognese dog〉を見て、あらためて「磁器」を見つめてみようと思いましたので。

私が陶磁器の世界に魅了されたのは30年以上前、ルーヴルで出会ったパリッシーでした。最高にグロテスクで最高にエキセントリックな感性が器の中で蠢いていて、一瞬で虜に。

「磁器」と「陶器」は土の成分が異なります。磁器は粘土に含まれる長石(ガラス成分)の含有量が多く、高温で焼成することにより、薄くて硬い透明感を生み出します。磁器に白さと硬さを与えているのがカオリンと呼ばれる成分。

ペナン島にある「プラナカン マンション(Pinang Peranakan Mansion)」の磁器の部屋。

東洋から西洋へ伝わった「磁器」

磁器は東洋から西洋へ伝わりました。中国景徳鎮を起源とする中国磁器、そして日本の伊万里焼が東インド会社を通じてヨーロッパにもたらされたのです。磁器というものが存在しなかった当時のヨーロッパの王侯貴族たちは、この白く光沢のある器に夢中になります。

下の画像は、マレーシアで出会った100年以上前の「プラナカン磁器」。マラッカに最初に定住したプラナカン・チャイニーズのコミュニティ専用に、中国景徳鎮の磁器窯に特別に発注された磁器です。

しかし、当時のヨーロッパでは磁器を作るための良質な粘土が採れませんでした。

有田で最初に磁器が焼かれたのは1616年。 こちらは1894年に深川忠次によって有田で設立された窯元「深川製磁」の器。

オランダの工房も東洋磁器の影響を受け、模倣し始めます。「中国写し」「伊万里写し」と呼ばれるものですが、これらは磁器ではなく、陶器に白い釉薬をかけたものでした。

Royal Delft Museum

ヨーロッパ初の磁器の誕生と英国のボーンチャイナ

1709年、東洋磁器の屈指の蒐集家であったドイツのザクセン選帝侯、アウグスト強王の命により、ヨハン・フリードリッヒ・ベトガーがヨーロッパ初の硬質白磁を誕生させます。マイセンです。

君は人語を解するよな。マイセンの犬、いや犬のカタチをした何か、と話してきた。
〈Bolognese dog〉in the Musée de Louvre. Manufactory: Meissen Manufactory Modeler: Johann Gottlieb Kirchner

カオリンを含んだ粘土が採れなかった英国で生まれたのがボーンチャイナ。牛の骨灰と磁土を混ぜ合わせて白い磁器を作ることに成功。チャイナは「磁 器」を指します。

英国の様々なメーカーで作られた「ウィロー(柳)パターン」と呼ばれるシノワズリ(中国趣味)の器。ここには中国の悲恋物語が描かれ、2 羽の鳥は現世で実らなかったふたりの姿が投影されています。

英国 BOOTHS 社〈REAL OLD WILLOW〉

このウィローパターンの器で思い出すのが、ヴィクトル・ユゴーの中国趣味のサロンと食堂。左の棚上部にブルーウィローの大皿が飾られていました。

ユゴーの偏執的装飾が強烈に感じられるこの空間は憧れ。
Maison de Victor Hugo

絵付けの技法とデザイン

陶磁器に絵をのせるには、手描きと転写という2つの技法があります。絵付師の個性が出る手描きには味があり、描き手の愛情が現れる動物たちの表情をじっくり眺めるのが楽しい。

香港の粵東磁廠で絵付けを拝見。

転写は、シールのような転写紙や銅板転写があり、先ほどのウィロー柄は銅板転写。

プラナカン磁器の転写レプリカ。

服でも陶磁器でもなんでも、私が惹かれるのは動植物モチーフだったり、様々な文化が混ざり合い「どこにもない異国」が感じられるもの。選ぶ基準は自分が好きかどうか。市場の価値にとらわれず、心動いたものが嬉しいもの。

『ムー』を読んで育ったので、キャトルミューティレーションを見るとつい。

Royal Delft 〈Cow abduction〉陶板

昨年、松屋銀座7階「デザインギャラリー1953」で出会った「Pottery Studio K」さんのUFO陶板も。配色が美しかった松と並べて、ヒエログリフ的に飾っています。

デザイン集団「CTRLZAK」がイタリアのSelettiと考案した陶器シリーズ〈HYBrid〉はずっと大好き。その国の歴史や伝統、文化という過去の蓄積を学び、それらをCTRLZAK独自の視点で「結合」。接合部分に段差があり、どんよりとした「融合」ではなく、国境のようにクッキリとした境界が特徴。東洋と西洋の歴史への皮肉と文化的背景が強烈に込められ、逆にまた接合することにより、より強固な結びつきが感じられるシリーズです。

松屋銀座で出会う有田焼の世界

なーんて色々思いながら、松屋銀座7階を歩いていたら飛び込んできたのが赤いトラちゃん。

乳白色の素地に赤絵を施す「濁手」と呼ばれる伝統的な技法を用いて制作される「柿右衛門」の作品。余白の美しさは流石。

有田焼「柿右衛門窯」 桔梗縁 竹虎文 7寸(奥)組湯呑 松竹梅文(手前)

食器売り場では有田焼の涙壺、一輪挿しに出会いました。

少しづつ集めたくなる愛らしさ。

ふと振り返ると、龍と鹿が仲良く並んでいました。カワイイ。

有田焼「真右エ門窯」染付龍絵 花瓶(左)「亮秀窯」染錦群鹿紋 香炉(右)

はるか昔、伊万里港から旅立った磁器たちはヨーロッパの王侯貴族を魅了し、磁器開発の原動力となり、今も静かな煌めきを放っていました。

すべての製品が手描きという有田の「源右衛門窯」。コミカルな表情の獅子にいつも癒される(私物)。

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Lulu.


2010年~2021まで11年間、VOGUE JAPAN でブログを執筆。馬と博物学的世界、ムー的世界を愛し、不思議を視たい!と旅に出て、「好き」と「感動」を掻き集める。高校時代に障害飛越にのめり込み、今はたまーに外乗を楽しむ50代。現在はnoteで発信。