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7F
遊びのギャラリー1979、
期間限定ショップ、
GINZA CREATIVE SELECTS
リビング・ホビー

Oshima Naoya
-About Surfaces of “Paintings“-

2025年6月11日(水)- 6月17日(火)

日本画を起点にその枠を超え、新たな視覚芸術を生み出している画家・大嶋直哉さんの個展を松屋銀座で開催します。これまでグループ展などへの参加はあったものの、百貨店で単独での個展は今回が初めて。そこで今展では、現在の創作活動を代弁する4つのシリーズから全30余点をピックアップし、その魅力を余すところなくご紹介します。テーマは「絵の表層について」。そこに込められた思いとは──。

緑豊かな上野公園に隣接する東京藝術大学。構内の一室にアトリエを構える大嶋直哉さんのデスク前にも大きなケヤキが根を下ろしている。若葉がさわさわと揺れる音、青い匂い。
──たしかにそこにある景色。
このような実在感を「自分×絵」との間で、どれだけリアルに感じ、それを表現できるだろうか。日がな一日、リアルとフィクションを行き来しながら「絵」に向き合う大嶋さんの姿がそこにあった。

日本画家の恩師との出会い。そして、日本の古美術に惹かれた少年時代を経て、芸術の世界へ。

大嶋さんが絵を描き始めたのは、幼稚園生のころ。通園する幼稚園の「おえかき」の外部講師を務めていた日本画の先生が、大嶋さんの絵に将来性を感じ、自身が主宰する絵画教室に誘ってくれたのだ。これを機に絵画教室に通い始めた大嶋さんは、「描くこと」の楽しさに夢中になっていく。また、それと同時に、さまざまなジャンルの芸術に触れる中で、日本の古美術に刺激を受けたという。
「わかりやすいもので言うと〈風神雷神図屏風〉だったり、尾形光琳をはじめとする琳派の絵師たちの作品であったり。力強さがありながら程よくデフォルメされた作品に魅力を感じていました」
高校卒業後は、東京藝術大学美術学部絵画科へ。専攻は、恩師から学び、そして、自らの実感としてもこれまでに最も心を突き動かされた日本画を選んだ。

そこで最初に教わったのは描き方について。日本画は、岩絵具や水干絵具(泥絵具)といった画材に膠と水を混ぜて色を画面に接着させ、描いていく。
「僕は少し経験がありましたが、水彩絵の具で描く感覚とはまったく違って、塗るというよりは置く感じ。この感覚をつかまないことには始めようがないんです」

自分が本当に描きたいものとは?

新たな「表現」について考えだしたのは、大学卒業後、修士課程に進んでから。もともと古美術的な日本の美術作品に興味があった大嶋さんだが、学びを深めるうちに、「自分にとっての日本画とは?」という疑問が頭の中を占めるようになっていた。

そもそも日本画とは、明治時代に洋画が日本国内に広がっていく中で生まれた相対概念。海外から入ってきた絵を「洋画」と呼び、それに対して、これまで日本にあった美術表現を「日本画」というワードで区別したわけだが、表題やモチーフ、様式において日本的特徴を持つものを指すのか、はたまた、油彩技法が到来する以前に日本で制作されたものを指すのか、その定義は漠然としている。また、今日の日本画の定義を「岩絵具を使用していること」とする考えもあるが、現在使用される岩絵具は近代以降開発されたものも少なくなく、日本古来のものとは断言し難い。つまり、日本画としての絶対的な基準がないので、自らの答えを創作のよりどころにするしかないのだ。

「日本美術や日本画らしいモチーフを日本画由来の画材で描けばそれらしくはなります。でも、それは表面的なこと」
自分が本当にやりたいことは何だろう。何がしっくりくるんだろう。いろいろな描き方を試しては自問自答を繰り返し......。そんなふうに自らの絵と向き合う日々の中で、大嶋さんの気持ちに少しずつ変化があった。

「富士山や松などのそれっぽい画題を岩絵具で描けば日本画なのか?という疑問は変わらずあるものの、でも、それ以外で、日本画らしさを示せる手立てがないのも事実。ならば、そういった浅はかさをあえてそのまま画面上に出すという表現を経ることが、描くことに対しての正直な姿勢につながるのではないか、と思うようになったんです」

そうして大嶋さんは、「絵の表層」にフォーカスするという、ひとつの答えに辿りつく。イメージ(図像)や絵そのものの物質感といった「表層」にフォーカスして作品を制作することで、「絵を描くこと」自体に価値や意味を見出し、また、見る側にとっても、それが「絵の見え方」に、新しい発見を生んでくれるのではないか、と考えてのことだ。

今を生きているからこそ感じる疑問が新しい美を生み出す手がかりに。

この「表層」へのフォーカス方法としては主にふたつのアプローチがある。ひとつは、描く「イメージとの接し方」に焦点を当てたもの、もうひとつは、絵の「表面の質感」に焦点を当てたもの。

前者の絵画表現としては、〈オブスクラ〉という言葉に収斂された〈Biotop (ビオトープ)〉、〈Picture Arrangement(ピクチャーアレンジメント)〉、〈Bonsai(ボンサイ)〉、〈Labels(ラベルズ)〉の4つのシリーズがある。

〈Biotop14〉綿キャンバス、アクリル絵具
ビオトープとは「bio(生命)」と「topos(場所)」とを組み合わせた言葉。植物を主体とした自然環境をモチーフとし、写真素材を組み合わせた空間を画面上で創造するシリーズ。

〈Picture Arrangement/umi-matsu〉綿キャンバス、アクリル絵具
空や風景といった背景に日本的なイメージ(画像)を組み合わせたシリーズ。生け花のごとくイメージを生けるように構成し、簡潔な視覚表現を試みている。

〈Bonsai〉綿キャンバス、アクリル絵具、岩絵具
日本において普遍的な表現様式の一つである「盆栽」をサンプリングしたシリーズ。風景から端的にイメージを切り取り、自由なシルエットの創造や歪曲を通した擬似的な構築をしている。

〈Labels/Koi〉和紙、アクリル絵具、岩絵具
日本美術や日本画において典型的な画題を「シール」に置き換え、絵画化したシリーズ。「図」の部分は貼り付けたように、「地」の部分は絵として描くことで、一枚の絵を構築している。

どれも一見では、ポップな印象。絵画というより写真画のような印象を受ける人もいるだろう。それもそのはず。これらのシリーズは、イメージを写真という印刷物に置き換え、それを絵画として再現する技法がとられているのだ。

各シリーズにより細かい過程は違うものの、基本的な手順としては以下の通り。
①奥行きを発生させながら切り抜いた写真(イメージ)を背景に配置する
②ライトを当てて撮影し、データをパソコンに取り込み、イメージ編集ソフトで加工する
③出力し、それをもとに絵を描く

この「イメージを取り込み、用紙に投影する」といった一連の流れが、周囲の情報を写し取る「カメラ・オブスクラ」という光学機器の仕組みと重なるところから、その名をつけた。

上左:背景に配置したイメージに光を当てて撮影しているところ。撮影はスマホで行う。
上右:カッターやピンセット、糊なども「絵を描く」のに欠かせない道具。
下:イメージ編集ソフトで加工し、出力した下絵をもとに、用紙に描き写す。

しかしなぜ、イメージをあえて写真という印刷物に置き換えるのか?
それは「描くこと」の実感を得るため。大嶋さんにとって、ある種、儀式的な作業だという。
「視覚情報に溢れた今の時代、スマホで簡単に絵が見れますよね。それが本当に実在するのかは関係なく、タップひとつで絵が現れる。このような状況下で、果たして、その絵、そのビジュアルにどれだけ実感をもてるのだろうかと疑問に思って。一方、写真もインクを染み込ませた視覚情報に過ぎず、その情報自体にリアルさはないのかもしれません。だけど“印刷物“という物体としての存在感はある。逆説的ではありますが、その存在がちゃんとわかるようにキャンバス上に表現するというのが、自分にとって実感のもてる絵のあり方なんです」

全作品に共通して「メタ的視点」が取り入れられているのは、そのため。背景の上に落とし込まれた虚像のイメージを俯瞰して見ることで、その実体がリアルさを帯びて浮かび上がってくる。
また、大胆にコラージュされた構成には日本画ならではの余白の美が宿っていて、新しくもどこかに懐かしさを覚える、ふしぎな魅力を放っている。

アトリエには〈Labels/竹虎〉や〈Picture Arrangement /Himawari〉など、制作中の作品がずらり。これらはすべて大阪で開催される展覧会に向けて用意しているもの。

描くことに対して自分自身を納得させられる表現方法を追求したい。

片や後者の「表面の質感」に焦点を当てた絵画表現については、モチーフをすべて花で統一した〈Meditation(メディテーション)〉というシリーズに集約されている。

〈オブスクラ〉の4つのシリーズが「イメージとの接し方」にリアリティを見出したのに対し、〈Meditation〉は、絵具が塗布された絵の表層にリアリティを見出したもの。研ぎ出しの要領で、和紙の全面に盛り上がるように塗られた岩絵具や水干絵具の「物質感」が、一時の輝きを見事に表し、そこに留めている。

〈Meditation〉和紙、岩絵具(すべて共通)
上:Delphinium
下左:Lily
下右:Cymbidium
絵具の物質感に焦点を当てた表現方法を試みているシリーズ。イメージと背景とが渾然一体となった装飾的な作品を提示している。

「今」このときが、一瞬、一瞬の積み重ねで成り立っているように、「表層」となる一筆、一筆の集積が、この絵の要。
「だから、この絵では岩絵具や水干絵具を使っているというところがあるんです。日本画は“岩絵具を使うこと”が前提になっていますが、自分としては、絶対に岩絵具を使わなきゃという気持ちがあるわけではなく、使うなら、ちゃんとそこに意味をもたせたいと考えているタイプ。その点、岩絵具や水干絵具はアクリル絵具に比べて、物質感があるのが大きな特徴。特にこのシリーズで使用している土系の天然絵具は、塗るとちゃんと厚みが出る。その物としての強度を引き出してあげることで、絵に表情が生まれるんですよね」

これに対して〈オブスクラ〉の諸シリーズはアクリル絵具がメインで、岩絵具や水干絵具は部分的に用いられているが、それは、そういった使い方をするほうが、印刷物に置き換えたイメージに「リアリティ」という重みを加えられるから。下絵の影を強調するために、イメージ編集ソフトも使うし、〈ラベルズ〉ではシール感を出すためにバーニッシュを使ってツヤを出したりもする。素材や既存の技法にとらわれるのではなく、目指す表現にあったものや方法を採用するというのが、大嶋さんのやり方だ。

上左:岩絵具や水干絵具はトキ皿に入れて、膠や水と練ってから使用する。
上右:アクリル絵具を使うときはバットの上に広げたトレーシングペーパーをパレットがわりに。
下左:下絵づくりに欠かせないノートパソコンには、大好きだというクラフトビールのステッカーがびっしり。
下右:岩絵具や水干絵具の収納にはビニール袋を活用。色ごとに分けられ、容量の増減に寛容なところが便利。

現在、大嶋さんは、東京藝術大学で助手を務めているため、自身の創作活動に打ち込める時間は週に3日。遅くとも11時にはアトリエに来て、夜は22時くらいまで作業に没頭する。
「のってくるのが夕方からなので。ずっとまじめに描いているわけではないんですよ」と笑うが、巧みなテクニックが施された手の込んだ絵を見れば、大嶋さんの絵に対する真摯な姿勢が伝わってくる。
「実感のもてる絵のあり方とはどういうものなのか」
「どうすれば納得のいく絵を描けるのか」
絵の〈表層〉の奥に秘められた、こういった問いかけは、今を生きるわたしたちに共通する問いかけでもあるだろう。
「何を信じるべきか」
「何を大切にすべきか」
情報に溢れ、バーチャルな世界が浸透していくこの現実で、絵という物体が教えてくれるものが、確かにある。「自分にとっての絵とは何なのか。どういった存在なのか。この個展が、そんなことを考えるきっかけとなってくれるとうれしいです」


大嶋直哉(おおしまなおや)
1995年岐阜県生まれ。2019年東京藝術大学日本画家専攻卒業。2021年同大学大学院日本画領域修了。2024年同大学大学院博士後期課程美術領域日本画修了、博士号取得。現在は同大学の日本画研究室で教育研究助手をしながら、画家として制作活動を行っている。